A. sCMV(synchronized Control Mechanical Ventilation, Volume Assisted Ventilation, ASSIST/CONTROL)
 
1.概念と目的
 機械的陽圧換気において、治療者が意図する一回換気量、吸気時間、吸気ガス流量、吸気ポーズ時間、呼気時間、で患者を換気すれば、確実で合理的な換気を提供できる。こうした換気モードをCMV(Controlled Mechanical Ventilation,機械的強制換気)と呼ぶ。しかしながら自発呼吸のある患者に、この換気法を適応させるとファイティングや患者のストレス等の問題が生じる。これらの欠点を減じるために自発呼吸の開始に機械的強制換気を同期させる手法が開発された。これをsynchronized CMVと呼ぶ。assisted CMV, triggered CMVと表現することもある。
 一般的にヨーロッパ製の人工呼吸器では、従量式強制換気にsynchronizedCMVの概念をそのまま用いる。つまり機械的調節呼吸が自発呼吸の開始に同期するという概念であるが、あくまでもCMVの概念の範疇内である。吸気ポーズ時間は原則的に付加されるべきものと考えられ、吸気ポーズを省いた設定は意義がないと考えている。自発呼吸との同調性はあまり考慮せず、ある程度のセデーションを前提とする。
 一方、アメリカ製では、機械的調節呼吸の概念にこだわらず、量換気(Volume Ventilation)の概念を柔軟に解釈し、患者の自発呼吸のパターンに合わせることで自発呼吸との共存を目指す。吸気ポーズ時間を付加することはファイティングの原因になるため、これを有害視し、必要時のみに選択するのが標準的である。漸減波の使用や設定吸気ガス流量以上の吸気や設定吸気時間を超える吸気を許容する機構、などに柔軟にボリューム換気を提供するための工夫があり、患者の吸気パターンとの同調性を重視する。これらの換気モードはAssisted Volume Ventilation, Volume Assisted Breath, Mandatory Volume Breath, ASSIST/CONTROL, A/Cと表現される。
 北欧では(特にシーメンス社は)、原則的にCMVの概念を世襲しているが、最近では、アメリカ式の柔軟な量換気の概念も取り入れている。これをPCV(Pressure Control Ventilation)の対になる用語としてVCV(Volume Control Ventilation)と表現している。
 
[参考1]Controlled Mechanical VentilationとContineous Mandatory Ventilation
 略語は両者ともにCMVであり、過去においては概念が似ていたこともあり混同されていることが多い。後者はIntemittent Mandatory Ventilation(IMV)に対する用語である。最近では強制換気(Mandatory Ventilation)にVAPSやAutoFlow, PCV, PCRVを用いた換気法が開発されたので両者を厳然と区別する必然性が生じた。強制換気を連続的に用いるか、自発呼吸をはさんで間欠的に用いるかが、Intemittent Mandatory VentilationとContineous Mandatory Ventilationの差である。そして、数ある強制換気の中の一形態がControlled Mechanical Ventilationである。
 
2.構成要素
1)トリガー機構
 トリガー方式には、圧、流量、ボリュームの3種類がある。詳細はトリガー機構を参照。
 トリガーウィンドーは全期間にあるので、患者の呼吸中枢に問題があれば、過換気を起こす可能性がある。強制換気直後に再トリガーしないように不応期を設けた機種もある。トリガーがなければCMVサイクル時間(60秒/設定呼吸数)を超えると次の強制換気を開始する。
2)吸気ガス流量
 吸気ガス流量は"一回換気量/吸気時間"で決定される。一時的にせよ患者の要求量より少ない時間があれば患者は息苦しさを感じる。また、吸気仕事量を増加させる。この場合気道内圧は陰圧になる。逆に吸気ガス流量が多すぎると圧迫感を増やし、気道内圧の異常な上昇を招く。
3)吸気時間
 吸気時間が患者の固有リズムより短いと息苦しさを感じさせ、頻呼吸の原因になる。場合によっては再トリガーによってdouble cyclingを誘発し、ファイティングを起こす。吸気時間は長過ぎてもファイティングの原因になる。
4)吸気波形  
 漸減波、漸増波、矩形波、サイン波が用意されているが、通常は矩形波と漸減波が使われる。従来は矩形波が標準であったが、最近では、漸減波はPCVと同等の効果をもたらし、より理想的なために漸減波を標準とした機種も登場している(Bird社のT Bird)。サイン波は自発呼吸パターンに近い波形であるが、陽圧式換気法における臨床的な評価は確立していない。
5)一回換気量
 患者の要求量より少なければ吸気相終了直後に再トリガーを起こす。過剰であればファイティングの原因になる。やっかいなことに患者の要求量は変動する。
6)吸気ポーズ
 酸素化能を改善する手段として、吸気終末に吸気弁と呼気弁を閉じて吸気状態のまま保持する。この期間に肺の静的コンプライアンスが計測できる。欧州製の機器には吸気ポーズは必ず付加されるが、アメリカ製の機器では、必要時にのみ付加するオプション扱いである。
7)呼気相
 ZEEPもしくはPEEPが付加される。
3.制御方法
 メカニカル方式、ニューマティック方式、電子回路方式、マイクロプロセッサー方式がある。現在ではマイクロプロセッサー方式が主流である。
4.利点と欠点
 確実な換気量を確保できる利点があるが、自発呼吸がある患者には患者の固有リズム(特に呼気の開始)と同期させるのが難しく、ファイティングを生じるのが欠点である。また、呼吸中枢障害や心理的な理由のために過換気を起こす可能性がある。同じ換気量であればPCVに比べてピーク気道内圧が高い。PSV(Pressure Support Ventilation)と比較すると患者の協力が得にくい為に平均気道圧も高くなる傾向がある。
 
[参考2]強制換気と患者呼吸との同期
 この問題を解決するために、吸気ガス流量補正機能(Servo 900, Servo 300, Bear 3, Bear 5, Erica, Elvira)や吸気波形の制御、不応期の設定、SIMV機構の開発が行われた(SIMVでは時間で区切ることで機械的換気と妥協している)。
 アメリカ式では、従量式換気の利点を評価し、量換気の範疇で患者の吸気パターンを模倣し、ピーク気道圧を抑えるために、漸減波の使用や吸気ガス流量の制御といった手法が一般化した。一方、北欧のSiemens-Elema社は、CMVの欠点を改善するという同じ目的のために、強制換気にPCVを用いる方向で発展していった。PRVCはこの成果である。最近では、アメリカでもPCVを評価し、アメリカ製の機器にもPCVが搭載されるようになった。さらに、PSVと量換気を重ねたPressure Augumentation(Bear社)やVAPS(Bird社), AutoFlow(Drager社)といった新しい強制換気モードも提唱されてきている。
 
[参考3]自発呼吸と同調させるためのトリミング
 自発呼吸と機械的人工呼吸の同調性を確認するには、圧、フロー、ボリュームのグラフィックディスプレーによるモニターが必須である。
 強制量換気では、患者の吸気流量より設定吸気流量が少ないと吸気負荷にしかならず、人工呼吸の目的を達することができない。吸気圧が滑らかに変化する場合や、PCVのそれに近似していれば、同調性が良いと考えられるが、終末に急な上昇を示せば、一回換気量が患者の要求量に比べて過剰な可能性がある。吸気初期に圧の上昇がなければ、換気補助の効率が悪い可能性が示唆される。SIMVの各換気相で、換気量や吸気時間の変動が大きければ、SIMV回数の設定や、PSVレベル、強制換気での一回換気量が不適切な可能性がある。
 強制圧換気では、吸気フローの終了と吸気時間の終了が同期していれば、同調性がよいと考えられる。この場合、圧パターンはなめらかな矩形波を描く。吸気時間の終了時に吸気フローが持続していれば、換気の効率が悪く、有効な圧換気とは言えない。逆に、吸気フローが終了しているのに吸気時間が持続していれば、不必要な吸気時間の強制になり、圧換気の利点を損なう。一回換気量の変動は換気圧の設定が不適切な可能性がある。(PCVモード時やPC-SIMVでPCV換気後のPSVで)一回換気量が徐々に少なくなったり、周期的に変動する現象は、換気圧の設定が少なすぎたり、PC-SIMVの回数が少なすぎるために、患者が疲労している可能性がある。
 
 
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