15.Bird Products Corp.
V.I.P BIRD
1.特徴(図III-15-1)
V.I.PはVentilator Infant Pediatricの略で名前の通りに、新生児、幼児、小児用のVolume cycle & Pressure relief,time cycle機である。Bird 8400STiをベースにとした小児専用機であるが、最大フローが120LPMあり、一回換気量が995mlまで拡張されているなど小児用に留まらない性能を持つ。換気量モニターPartner IIiを併用するとさらにPTV機能も付加される。
2.性能
1)利用できるモード
Volume cycle
Control/Assist
SIMV/PSV
Time cycle,Const.flow,Press.relief
ASSIST/CONTROL
SIMV/CPAP
---------------------------------
+PEEP
+flow termination
2)基本データー
システム作動間隔時間...2ms
最大吸気ガス流量
強制換気............100LPM
PSV.....................120LPM
吸気ガススルーレート...? L/s2
最大強制換気数......... 150 BPM
最大SIMV回数........... 150 BPM
3.制御回路、制御機構
1)制御機構の概説
制御回路にはMPU使用されていて情報はすべてデジタル処理される。System control、Data acquisition、Data displayのそれぞれにMPU(80C31)が使われている。呼気ガス流量モニター機能は内蔵されていないが、オプションの換気量モニター"PARTNER IIi"が用意されている。Partner IIiを光ファイバーケーブルで接続するとTime cycleモードでのPTVが可能になる。また、フローターミネーション(ASSIST/CONTROL,Time cycleで解説)も可能になる。
2)機械的機構の特徴
チューブレスダイキャスト(Bird 8400STiと同様)によりニューマティック回路が構成されている。また、トリガーレスポンスの迅速さも特筆される。フローシンクでの反応時間は25+/-3msと短い。(吸気バルブの反応時間は0.2msである。)
3)ガス流量計測
a)吸気側
サーボバルブの位置と前後の圧より流量を演算する。
b)呼気側 or Yピース部位
オプションの換気量モニター"PARTNER IIi"では膜型センサーの前後圧の勾配で流量を計測する。センサーは目的に応じて各種用意されている。センサーは呼気弁の後に設置するが、フローシンク時には専用のセンサーをYピースと気管チューブの間に設置する。
4)吸気バルブ
ステッパーモーター駆動型である。従来のBirdのものの改良型で0.1LPMの分解能がある。
5)呼気バルブ
呼気弁ボディーはBird 8400STと類似であるが、呼気吸引機構が設けてある。Time cycleモードでは、呼気弁のベンチュリ部にジェット流を流し、ジェットベンチュリ効果で呼気ガスを吸引する。これはAuto-PEEP対策である。
4.ニューマティック回路(図III-15-2)
エアー配管よりの入力ガスはフィルターを経由して、酸素配管のは直接ブレンダーに入力して酸素濃度を調整する。これはBird 3800 microblenderと同じものである。流量の少ない領域でのブレンダーの精度を保つために、貯蔵タンク直前でガスを部分的に放出する "Blender bleed system"も設けられている。ここでは絶えず6LPMのガスが捨てられている。また、ここには機械保護のために100psigのリリーフ弁が設けられている。酸素濃度が調整されたガスは1.1リッターの貯蔵タンクでピーク流量に備える。レギュレーターで25psigに減圧し、パルスダンパーを経て吸気バルブに入る。吸気バルブで流量調整されて吸気ガスが形成される。オプションでHigh Frenquecy Drive Solenoidが用意されている。これはHFV用である。吸気ガス出力には二重の安全機構として、安全弁(Safety solenoid)とパネル面で手動で調整できる過剰圧開放弁(Over Pressure Relief Valve)が設けられている。
気道圧は吸気側・呼気側・近位圧の三カ所でモニターされる。近位圧センサーチューブにはパージ流が設けられている。
呼気弁は電磁駆動型であるが、ここにはジェットベンチュリ機構が設けられていて、呼気ガスを吸引する。JET SOLENOIDがジェットガスを供給する。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式
Volume cycleモードは圧トリガーであるが、Time cycleモードではフロートリガーによるPTVになる。感度は0.2〜5.0LPMの範囲に設定できる。
2)ASSIST/CONTROL(Volume cycle)
時間もしくは圧トリガーで吸気が始まり、ボリュームサイクルで吸気が終了する。アラーム状態では圧サイクルで終了する。
3)SIMV/CPAP(Volume cycle)
トリガーウィンドーは可変時間方式である。SIMV回数を0回/分に設定するとCPAPになる。このモードでのCPAPはディマンドフロー方式なので、通常はPSVを併用する。したがってSIMV/PSVと表記するのが妥当であろう。SIMVの強制換気はASSIST/CONTROL(Volume cycle)と同じ方式である。吸気フローが不足の時は最大120LPMまでディマンドフローが供給される。
4)PSV
PSVの吸気は圧トリガーで開始し、フローサイクルで終了する。PSVの立ち上げ時の流量の加速度はオーバーシュートのないように自動調整される。新バージョンでは吸気終了認識条件は下記のように、供給された換気量に応じて変化する。フローが低下しない時は時間サイクルで終了する。アラーム状態では圧サイクルで終了する。
0-50ml......5% of Peak Flow
50-200ml....5-20% of Peak Flow(liniar)
200ml over..25% of Peak Flow
PSVの最大吸気時間は3秒叉はCMVサイクル時間の2倍のいづれか短い方の時間に制限される。また、最大吸気時間もユーザーの希望値に設定できる。一回の吸気に1.5リットル駆出されると吸気流量を40LPMに落として最大3秒まで吸気ガスが供給される。
5)ASSIST/CONTROL(Time cycle)、フローターミネーション
強制換気は定常流を呼気弁で開閉する圧リリーフ方式で行われる。吸気相では気道内圧が設定値になるまで呼気弁は閉じられている。その結果、定常流は患者の肺に流入して吸気ガスになる。気道内圧が、気道内圧上限(High Pressure Limit)に達すると定常流は呼気弁よりリリーフされる。呼気弁でのリリーフ量は、吸気時間中、設定圧を維持するようにサーボ制御で調節されている。呼気相では、定常流が流れているのでミストリガー時でも自由に呼吸できる。定常流量は、フローのつまみで設定する。15LPM以上に吸気流量(=定常流量)の設定では、呼気相で患者の呼気を妨げないように、定常流量は15LPMに下がる。15LPM以下の設定では定常流量は変化しない。吸気フローが不足の時は最大120LPMまでディマンドフローが供給される。吸気はフロートリガーで開始し、時間サイクルで終了するが、ターミネーション"Termination sensitivity"を設定するとピーク流量に対する%流量に吸気ガス流量が低下した時点で終了する。もし流量が低下しない場合は時間サイクルで終了する。これは呼吸数が多くなった際でも必要な呼気時間を確保しファイティングを防ぐ為の処理である。アラーム状態では圧サイクルで終了する。
6)SIMV/CPAP(Time cycle)、フローターミネーション
トリガーウィンドーは可変時間方式である。強制換気はASSIST/CONTROL(Time cycle)と同じ方式である。フローターミネーションも利用できる。自発呼吸は定常流方式のCPAPで与えられる。
7)リーク補正"Leak compensation system"
これはBear-5の"Leal make-up"機能と類似であり、Volume cycleモードで有効である。 吸気時に"Machine pressure-Proximal airway pressure"が一定の値(=0.5cmH2O)以上になれば、これを補正するように吸気流量を0〜10LPMの範囲で増加する。また呼気時にベースライン圧(=PEEP/CPAP圧)が低下すれば、これを補うように吸気バルブを調整する。これらは総合的に患者回路のリークを補正する。しかし体重10Kg以下の患者にPSVの適応が拡大されるにつけ、これらの患者ではリークが少なく、また、リーク補正機能が感度の低下を招く事が判明した。こうした特殊な使用法の為にリーク補正機能をOFFにもできる。(OFFの仕方はマニュアル参照)
8)ディマンドフロー機能
呼気弁の働きだけで気道圧"Baseline pressure"が維持できないときは、吸気側のサーボバルブの流量が120LPMまでの範囲内で増加する。
9)呼気ガスの吸引
フローの設定が5LPM以上で、PEEP圧の設定が5cmH2O以下の時には、Auto-PEEPの発生を防止するように呼気弁に組み込まれたジェットポンプで呼気ガスを吸引する機構になっている。
10)PEEP補正
呼気弁の開閉は圧によるサーボ制御で調整されているので呼気ガス流量が変動してもPEEP/CPAP圧の変動が少ない。
11)バックアップ機能
無呼吸バックアップ機能はない。
12)バッテリー駆動
DC12vで作動可能、この際最大5A消費する。
13)データー出力
RS 232で各種データーを出力できる。また、光ファイバーでPartner IIiとリンクできる。
14)セルフテスト
"Power On Self Test"機能があり、エラー発生時にはエラーコードが表示される。
6.操作体系(図III-15-3)
1)操作法
設定項目ごとにそれぞれ対応したつまみで設定する。設定値もそれぞれ数値表示される。
2)矛盾した設定
矛盾した設定値を選んだ場合は、そこの項目に表示される数字が点滅して、訂正を促す。
3)PTV
PTVではASSIST/CONTROL(Time cycle)とSIMV/CPAP(Time cycle)が利用できるが、この際には専用センサーを気管チューブとYピースの間に設置する。専用のセンサーのコネクターをPartner IIiに接続すると自動的にPTVになる。換気回数を30 BPM以上に設定する場合はターミネーションを設定し、auto-PEEPとファイティングを防止する。これにより吸気時間は0.2〜0.4sの範囲で変化する。PTVでは同じ吸気圧でもIMVに比べて一回換気量が増加するので注意する。PTVはセンサーの抵抗が無視できなくなる為、気管チューブ径が4.5mm I.D以下の患者には適さない。
設定の参考値として以下の初期値が一般的である。換気回数30〜60BPM、吸気フロー5〜8LPM、吸気時間0.35〜0.40s、感度0.2LPM、ターミネーション25%。感度は0.2LPMにリーク量を加える。Patrner IIiのCont.Vボタンを押してリアルタイムの流量をモニターすればリーク流量が分かる。患者の吸気開始直前のフローがリーク量である。感度をリーク補正した後、auto-cyclingしていないか観察し、必要ならさらに補正する。ターミネーションは25%より5%づつ減らし、吸気時間が0.20〜0.25s以上確保できるように調整する。(この際Partner IIiの表示をInsp.Timeにする。)新生児では5%か10%になるのが一般的である。なお、25%の値では吸気時間が短く、値を少なくすると吸気時間は延長する。ターミネーションが作動するとターミネーション感度のディスプレーが点滅するが、この状態が正常である。
7.モニター、アラーム機能
1)VIP Bird本体
以下のアラームが用意されている。
吸気圧上限.................(3〜120cmH2O)
ピーク圧下限...........(off,3〜120cmH2O)
PEEP/CPAP下限.............(-9〜+24cmH2O)
最高吸気圧(自動設定)
....(IMV/CPAP):high press.limit+10cmH2O
.................(ALL):PEEP/CPAP+6cmH2O
無呼吸時間.............(10,20,40 or 60s)
供給ガス圧.......... <22.5 or >27.5psig
機器作動異常
2)Partner IIi
過呼吸、低分時換気量、無呼吸、センサー異常
8.ディスプレー機能
1)設定値の表示
各つまみの設定値に対応して LED による数字が表示される。
2)実測値の表示
呼吸数(Breath rate)、吸気時間(Insp.Time)、I:E 比、ピーク圧(P.I.P)、平均気道内圧(M.I.P)の内、一項目だけ数字表示できる。
3)Partner IIiでの表示
一回換気量、実測呼吸数、分時換気量をデジタル表示する。
9.患者回路構成、加湿器(図III-15-4)
1)回路
新生児回路と小児用回路の二種類がある。
2)加湿器
標準はTransmed社のHPD 3000である。この加湿器は新生児より成人まで使用可能である。加湿効率が高く、F&Pより抵抗が少ない。
10.メンテナンス
Partner IIiのPTV用センサーは約6ヶ月間使用できる。製造後一年間経過したものは未使用でも破棄する。センサーは24時間で洗浄、薬液滅菌し、精製水でリンスする。オートクレイブはできない。呼気弁も同様に洗浄、滅菌、リンスする。フィルターは患者毎にオートクレイブする。
11.定期点検
1)1,000時間ごと
呼気弁ダイアフラムを交換する。また、ガス入力フィルターを点検し、必要なら交換。
2)3,000 時間ごとに
圧トランスデューサー(Machine & Airway pressure transducer)の精度を点検し、誤差があれば、Birdの技術サービスで較正する。
3)5,000 時間ごと
バクテリアフィルター(Main flow,Proximal airway)を交換する。この時間内であっても抵抗が大きくなれば交換。O2/Air入力フィルターも交換する。
4)15,000 時間ごと
オーバーホールを受ける。
12.欠点
1)フローターミネーションやリーク補正機能のON/OFF等、多機能な点は評価するが、こうした機能を利用するには操作が少々マニアックである。
図III-15-1 V.I.P BIRD, Partner IIi
図III-15-2 V.I.P BIRDニューマティック回路
図III-15-3 V.I.P BIRD操作パネル
図III-15-4 V.I.P BIRD患者回路