32.pneuPAC Limited
paraPAC 2, 2D, 2D MRI, ventiPAC
1.特徴(図III-32-1)
paraPACシリーズはパラメディカルが操作するのを前提に設計された、酸素もしくは圧縮空気のガス圧を動力源とする、小型軽量、対衝撃性、略式操作方式の簡易型人工呼吸器である。レスキュー、蘇生、CT室、MRI室、搬送に適する。paraPAC 2DはparaPAC 2にディマンド機構を追加した製品である。paraPAC 2D MRIはparaPAC 2D を非磁性素材で構成した製品で、MRI室用である。ventiPACはparaPACとほとんど同じ構成であるが、設定方法がより本格的になっている。新生児用のbabyPACというモデルもあるが、これはかなり本格的な圧換気式のモデルである。もちろんこれにもMRI対応モデルもある。
2.性能
モード...............................CMV/Demand(synchronized Minimum Mandatory Ventilation), Demand
一回換気量.......................70〜1300ml (paraPAC)
I:E比.................................設定できない (paraPAC)
吸気ガス流量...................5.2〜52 LPM (paraPAC)
ディマンドフロー............120LPM (-8pH2O時)
呼吸回数............................8〜40BPM (paraPAC)
吸気時間............................3.0〜0.5sec. (ventiPAC)
呼気時間............................6.0〜0.5sec. (ventiPAC)
吸気ガス流量....................1.0〜0.1 L/sec(ventiPAC)
ガス消費量.........................分時換気量+20 ml x RR
(エアミックス時には分時換気量の30% + 20 ml x RR)
重量.....................................2.8 Kg
消費電力.............................なし
3.機構の概略
1)paraPACとventiPAC
paraPACはニューマティック回路方式の簡易型人工呼吸器で、ガスだけで作動する。オプションに小型コンプレッサーも用意されている。呼吸回数と一回換気量は独立して設定できるが、簡易なニューマティック回路で、これらのパラメーターを任意値で正確に設定できるわけではない(例えばCV-2000やNew Port E-100では、吸気時間と吸気ガス流量の積で一回換気量を決定する)。paraPACでは設定呼吸回数を変化させると、それに伴なって吸気時間も変動し、結果的に一回換気量も変動する(下の表のとおり)。変動量を少なくするために、呼吸回数を増加させると、吸気ガス流量も増加する機構になっているが、特定の設定呼吸回数の場合だけ、誤差が許容範囲になる。操作パネル面には、一回換気量と呼吸回数の範囲が4色に色分けされていて、同じ色の範囲が望ましい設定となる。設定を正確にするための上位モデルとしてventiPAC(国内未発売)もラインアップされている。ventiPACでは吸気時間、吸気ガス流量、呼気時間を設定して、一回換気量や呼吸回数を設定する。この方が機構的には正確であるが、その分、設定のための計算が煩雑になる。
一回換気量設定 |
実際の流量 |
呼吸回数設定 |
実際の一回換気量 |
最大
|
52 LPM
|
8 BPM
12 BPM |
1570 ml
1290 ml |
1300 ml
|
48 LPM
|
8 BPM
12 BPM |
1400 ml
1180 ml |
1000 ml
|
39 LPM
|
8 BPM
12 BPM |
1170 ml
960 ml |
800 ml
|
34 LPM
|
12 BPM
15 BPM |
850 ml
750 ml |
500 ml
|
23 LPM
|
15 BPM
20 BPM |
540 ml
470 ml |
200 ml
|
9 LPM
|
20 BPM
40 BPM |
220 ml
130 ml |
最低
|
5.2 LPM
|
25 BPM
40 BPM |
90 ml
65 ml |
吸気時間は設定呼吸回数によって次の固定値が選択される。吸気時間は設定呼吸回数にかかわらず、あまり変化が少ない。むしろ呼気時間は大きく変動する。設定呼吸回数によって一回換気量が変動しないための工夫は、吸気時間があまり変化しない点が一番貢献していて、吸気ガス流量の補正機構は補助的であることが解る。
設定呼吸回数 |
吸気時間 |
I:E比 |
呼気時間 |
8 BPM
12 BPM
15 BPM
20 BPM
25 BPM
30 BPM
35 BPM
40 BPM |
1.67 s
1.38 s
1.18 s
1.0 s
0.84 s
0.72 s
0.63 s
0.56 s |
1 : 3.49
1 : 2.62
1 : 2.39
1 : 2
1 : 1.86
1 : 1.73
1 : 1.71
1 : 1.68 |
5.83 s
3.62 s
2.82 s
2.0 s
1.56 s
1.28 s
1.08 s
0.84 s |
|
|
このようにparaPACの設定は結構いい加減であるが、パラメディカルが緊急時に間違いなく手早く操作できることを重要視している。一方、ventiPACでは、吸気時間、呼気時間、吸気ガス流量の設定によって、一回換気量、呼吸回数、I:E比(吸気時間)を設定する。この方がパラメーターを正確に設定でき、paraPACがもつ曖昧さは解消されているが、設定に際して暗算を必要とし、また、設定に際して一定の知識を要求する難点がある。
b)CMV/Demandモード
このモードでは、ディマンドボリュームに応じて強制換気回数は減少する。それは次の理論で行われる。ディマンドがあった時点より、そのボリューム量に応じて、次の強制換気までの呼気時間は最大、設定呼吸回数で規定される呼気時間(上の表の呼気時間)まで延長される。呼気時間延長機構は、充分なディマンドボリュームがある度に作動するので(breath by breath basis)、条件が整えば結果的にオシレータは完全に(連続的に)停止する。呼吸回数12〜16 BPMの範囲では400 ml以上の一回換気量があれば、この条件を満たす。少ない吸気ガス流量では呼気時間延長機構は作動しないようになっている。しかし、頻呼吸でもディマンドボリュームが充分あれば延長機構は作動する。したがって、自発呼吸回数が多いときにはオシレターの完全停止が起こりえるが、少ない場合には部分的な停止が起こりえる。その際には15 LPM以上のディマンド流量があれば、機械換気は自発呼吸に同期する(つまりトリガー機構として作動する)。これらの動作を要約すると、CMV/Demandは自発呼吸が強ければEMMVのように作動し、自発呼吸が弱ければSIMVのように作動する。
2)ニューマティック回路(図III-32-2a,b)
ニューマティック回路は概略しか公表されていない。paraPAC にディマンド機構を追加した製品がparaPAC 2Dである。メインオシレターの設定方法を変更したのがventiPACである。メインニューマティックスイッチ4は駆動ガスをCMV回路に供給するか否かのスイッチであり、Demand 回路はスイッチの位置に関わらず、駆動ガスが直接供給されている。このスイッチによりCMV/Demand とDemandが切り替えが行われる。メインオシレターはニューマティック回路で構成されていて、CMVでの吸気・呼気時間のタイミングを制御する。デマンド回路はオシレター回路にも関与していて、ディマンド量によってはオシレターの停止をもたらす。また、トリガー機構としても作動する。呼吸回数の設定ノブ6はオシレターの作動を調節するニードルバルブで、また、吸気ガス流量を若干変化させる働きがある。一回換気量のノブは連動しているニードルバルブ13,14の流量を調節する。空気取り入れ口15はエアミックスを行う装置で、エアミックスをしない場合は駆動ガスが混合されるので、結果的には希釈されないことになる。回路内の異常高圧は開放弁12でリリーフされる。吸気弁16は(オシレターがONになり)圧がかかるとスイッチをOFFにし、圧がかからないときにはONになるニューマティックスイッチで、吸気時以外に患者回路を大気に開放する働きをする。機構上、ディマンドガスはエアミックスされないので、駆動ガスが100%供給される。
呼気弁はアンビューバッグについている弁機構と類似の構造で、加圧時に呼気を塞ぐ。オプションでPEEP弁も用意されている。
4.操作(図III-32-3)
paraPACでは、Vt(一回換気量)とFreq(換気回数)を設定する。これらは任意の値に設定できる印象を与えるが、あくまで簡易機であるので、同じ色に区分された範囲から外れた設定では誤差が多いので推奨できない。ventiPACでは吸気時間、呼気時間、吸気ガス流量を設定する。駆動ガスが接続されている限りディマンド機構は働く。通常は駆動ガスの節約のためにもエアーミックスをした方がよい。その際には45%の酸素濃度になる。リリーフ圧の調整(20〜80pH2O)はマノメーターを見ながら行う。
5.モニター、アラーム
マノメーターによって気道内圧のモニターができる。圧リリーフ時にはアラーム音が鳴る。
6.メンテナンス
定期的に機能チェックを行う。特別な点検修理計画は必要ない。患者回路や呼気弁は適時点検し、適時、洗浄滅菌すること。
図III-32-1a, b, c paraPAC外観、ventiPAC外観、babyPAC外観
図III-32-2a ventiPAC構造
図III-32-2b ventiPACニューマティック回路
図III-32-3 paraPAC操作パネル