E. EMMV(Extented Mandatory Minute Volume ventilation)
1.概念と目的(図1−9)
MMVは1977年にHewletらが考案し、Bird ventilatorを利用して作成した。(図I-7)自発呼吸によってリザーバー内のガスを自由に呼吸するが、設定された分時換気量が達成されなければ、スイッチが入って不足分に見合った強制換気が開始される。この強制換気は自発呼吸に同期しないのが欠点である。もし、呼吸努力が十分で設定された分時換気量以上の自発換気量であれば強制換気は供給されない。この機構は、はじめメカニカルに構成されたが、市販された製品ではすべてMPU (Micro Processor Unit)を応用した電気処理回路で構成され、設定された分時換気量以上の吸気が可能なExtended MMV(EMMV)方式である。また、Engstrom社の方式以外は、強制換気は自発呼吸に同期して与えられる。CPU-1やErica、Evita等で、PSV+EMMVが可能である。
(参考5)MMVとEMMV
同じMMVの略語を使用するMinimum Minute Ventilationと区別するために、本書ではMandatory Minute VentilationをEMMVと表現する。
2.構成要素(図1−8)
EMMVは(1)自由換気相(もしくはPSV)が基本状態であり、自発呼吸が設定された分時換気量を達成されない場合だけ(2)強制換気相になる。強制換気相はCMVあるいはSIMVで行われる。
3.制御方式
1)制御機構
これには(1)メカニカル方式(2)MPU制御方式の2つがある。これまでに市販された機種はすべてMPU制御方式である。
2)作動様式
各メーカーで異なった様式を考案している。
a)Engstrom方式(CMV付加方式)
EricaやElviraでは自発の分時換気量(吸気量)が設定値以下になれば、自発呼吸モードからCMVモードに切り替わる。目標の分時換気量が達成されると元の自発呼吸モードに戻る。
(2)Drager方式(SIMV付加方式)
Evitaでは自発の分時換気量(吸気量)が設定値以下になればSIMVモードが挿入される。
(3)Ohmeda方式(SIMV回数調節方式)
CPU-1のEMMVは、オリジナルの制御方式ではなく、24秒毎に呼気分時換気量の実測値と設定値を比較し、この比率に応じてSIMV回数を12.5%あるいは25%増減して分時換気量を安定化させようとしている。しかし、SIMV回数を増加すれば意図どうりに呼気分時換気量が増加するとは限らない。そこで、呼気分時換気量を維持できない状況に備えてSecurity valueと呼ぶBack Up回数が用意されている。
4.修飾要素
1)分時換気量の計測部位
分時換気量は重要な制御指標であり、制御ミスは致命的である。分時換気量測定系の測定精度に応じて(1)吸気側測定(Engstrom,Drager)(2)呼気側測定(Ohmeha,Bear)が選ばれる。送気ガスの回路リークを考慮すると呼気側での測定が望ましいが、吸気側の測定より時間的な遅れが発生する、制御系の作動に高い迅速性が求められる。一般的にはホットワイヤー型の換気量測定装置では、確実性が乏しいのでEMMV制御情報として使われない。(例外CPU-1,Bear-1000)
(2)分時換気量の計測時間
計測間隔が長いと分時換気量が低下しても強制換気で補償されない時間が長くなる。一方、間隔が短かすぎるとスムースに作動できない。CPU-1では24秒毎に過去24秒間を計測する。Bear-5ではトリガー毎もしくは10秒毎に過去20秒間を計測する。Evitaでは随時計測で過去20秒間を重視した処理をする。
(3)過換気後の無呼吸に対する処理
EMMVの強制換気で過換気になり、その後に無呼吸が続くことがある。これによる分時換気量の大きな変動を避けるために、過換気後の無呼吸時間を制限している機種が多い。
(1)Erica,Elviraでは3〜10秒で強制換気を送るTime limit functionが装備されている。許容される時間は一回換気量と分時換気量の設定値で決まるが、詳細は公表されていない。
(2)CPU-1ではApnea monitoringと呼ばれる無呼吸バックアップ機能(15秒)がこれに対応する。
(3)Evitaでは無呼吸15秒で強制的にSIMVサイクルが開始される。
(4)Bear-5はもともとSIMV+EMMVなので無呼吸時間が長くならない。また、機構上、通常換気では10秒で、過換気の程度が大きければ20秒でBack Up回数のSIMVサイクルが開始される。
5.利点と欠点
EMMVは、IMVの強制換気回数を可及的に減らすことを目的に考案されたモードである。当時はウィーニングを自動的に進める機構と解釈されたが、実際には「浅い頻呼吸」で維持される傾向にあり、適切なモードではない。EMMVをコントロールするパラメーターは分時換気量だけなので、適切な分時換気量が呼吸機能が改善して得られた場合でも、著しい吸気努力によって達成されている場合でも、同じように強制換気が減少してしまい、後者には不利になる。
EMMV開発の後、PSVが考案され、EngstromやDragerがPSVと組み合わせて、EMMV+PSVという呼吸様式を実用化した。PSVを併用する事でEMMVでの「浅い頻呼吸」は改善されたが、依然として制御系と患者のリズムが合わず、分時換気量が周期的に変動する傾向がある。EMMVは患者の自由な呼吸を許容する範囲をオペレーターが設定できないため、あるいはPSVの普及に押しやられたため、正当な評価を得ることがなく衰退した。EMMV+PSVでのEMMVはPSVを補佐する安全機構と考えてよく、「自動復帰型のバックアップ換気の一種」と表現することもできる。