I.BIPAP(Bi-phasic Positive Airway Pressure)  
1.概念と目的(図1−13,14)
 CPAPは、強制換気に比べて低い気道内圧で肺の酸素化能を改善できるが、換気補助能力がほとんどなく、適応が限られる弱点がある。二つのCPAPレベルを(自発呼吸に同調させて)交互に切り替えることでCPAPに換気補助能力を付加したのがBIPAPの原点である(狭義のBIPAP)。当初は一つのCPAP相に2〜3個以上の自発呼吸を含むものと定義されていた。しかし、これでは換気補助能力に限界があり臨床応用も限られていた。
 最近では、二つのCPAPレベルを自発呼吸に同調させて交互に切り替える機構(BIPAPシステム)により作りだされる換気モードの総称をBIPAPと称し、PCVやSIMV(PCV)モードの概念も含むようになった。例えばDrager社がBIPAP+ASBと呼ぶ換気モードはBIPAPシステムによるSIMV(PCV)+PSVで、低圧相の期間にはPSVを付加するモードを意味する。 狭義のBIPAPの変法で、低圧相には一つの呼気のみの状態をAPRVと呼ぶ。 BIPAPはEvita(Drager)のみに搭載されている。従って、BIPAP/APRVの臨床評価は、Evitaを通してでなければ不可能なため、Evitaの性能に装飾されている危険性を考慮しなければならない。
2.構成要素
 (1)低圧相と(2)高圧相によって構成される。各相でも自発呼吸が可能である。
3.制御方式
1)制御機構
 MPU制御による高速作動型のディマンドフローシステムと電子式呼気弁制御システムを用いて、「任意の圧と回数」で二つのCPAP圧を切替える。
2)作動理論
(1)各相の切り替え処理
 各相の切り替えにはトリガーウィンドーが設けられていて、低圧相から高圧相には吸気開始認識条件を、高圧相から低圧相には吸気終了認識条件を満たした際に呼吸に同期して切り替えられる。詳細は、Evitaの解説を参照すること。
(2)トリガーウィンドー
 現時点では、各相の終わり25%に設けられている。自発呼吸と相の切替が同期した方が換気量は増大する。しかし、同期せず切替ることもあるので、SIMVと同様に制御法に改良が求められる。
 
4.修飾要素
(1)高圧相、低圧相の圧差(BIPAP圧)
 BIPAP圧の圧差が少なければ自発呼吸を両相に認めるCPAP様の換気(狭義のBIPAP)になるが、差を大きく設定すればPCVやSIMV(PCV)の性格を帯びる(広義のBIPAP)。
(2)BIPAP頻度、各相の時間
 狭義のBIPAPの範疇で作動させる場合には、一定値以上にBIPAP回数を多くしても換気量は増加せずむしろ低下する。また、トリガーウィンドーも狭くなるので自発呼吸に同期しない頻度が高くなる。BIPAP圧とBIPAP回数を多くしてPCV様の換気を模倣すると、換気補助能力は増大する。ただし、高圧相の時間は自発呼吸の1吸気時間に設定する必要がある。
(3)低換気バックアップ
 無呼吸バックアップが利用可能である。
5.利点と欠点
 原理的に如何なる時相でも自発呼吸が可能である。そのためファイティングが少ない。また、設定可能範囲が広いので、任意の圧と回数を組み合わせると、ほとんどの圧制御型の換気モードを作り出せる。したがって、あらゆる病態の患者に対して臨床応用が可能である。
 しかし、狭義のBIPAPの範疇では、あくまでもCPAPの変法なので、安定した自発換気の存在を前提とする。また、最大BIPAP回数は自発呼吸数の1/4〜1/3まで制約される。換気補助能を増大させようと圧格差を大きくすると高圧相での自発換気量が減少してしまう。結果的に換気補助能力に限界が生じる。酸素化能の評価は、特にPCV/IRVと比較すべきであろう。しかし、自発呼吸を原則的に認めないPCV/IRVとは根本的な換気思想が異なるので、これらの単純な比較は意味がない。
 一方、BIPAPシステムによるPCVやSIMV(PCV)では、自発呼吸の存在は必須ではないが、高圧相の時間は狭義のBIPAPと違い常識的に1吸気時間に制約される。通常のPCVでは、(肺と呼吸回路によりもたらされる)コンプライアンスと容量と抵抗をもつ振動系により設定圧より高い圧が提供されるケースもあるが、BIPAPシステムでは如何なる振動系が負荷されても、呼気弁での圧リリーフがあるので、正確に設定圧を維持できる。