3. Bear Medical
BEAR-5
1.特徴(図III-3-1)
1986年に発売されたBEAR-5は、妥協を排し可能性を追求して開発された、おそらくBear社(米国)史上最高の人工呼吸器である。成人から小児(新生児)までを守備範囲としている。多彩な機能を持ち、最大吸気流量、最大呼吸数といった基本性能や、高度のフローコントロール技術においても、スーパーべンチレーターの宣伝コピーに恥じない。現在はBEAR-5は販売を終了している。しかし、1999年の時点でも、後継機BEAR-1000や他の最新の人工呼吸器を含めて、BEAR-5の性能を完全に超えている機種はない。
2.性能
1)利用できるモード
Control/Assist
SIMV+PSV
PSV
CPAP(定常流、PSV+PEEP)
AMV+PSV
IMV(Time cycle,Pressure relief)
---------------------------------
+PEEP
2)基本データー
システム作動間隔時間...12ms
最大吸気ガス流量
強制換気............150LPM
PSV.................170LPM
吸気ガススルーレート...18.3L/s2
最大強制換気数.........150 BPM
最大SIMV回数...........150 BPM
3.制御回路、制御機構
1)制御機構の概説
MPUはメインにモトローラMC68000、コントロールボードにMC6805を使用している。従来のBearシリーズはニューマティック制御を主体にしていたが、Bear-5では情報をすべてデジタル処理している。「患者の自由換気と強制換気をバランス良く両立させる」Bear社伝統の設計思想は、ハードによる構成から、ソフトによる構成に変身した。AMVモードや吸気ガス流量補正機能、リーク代償機能は技術レベルの高さを示している。さらに新生児、未熟児用に、Bear Cubを凌ぐ本格的な圧リリーフモード(Constant Flow,Time cycle,Pressure relief)さえ用意している。
2)機械的機構の特徴
吸気バルブ・呼気バルブともにステッパーモーターを使用したサーボバルブを使用している。また、吸気・呼気ガス流量も同じVortex型のフロートランスデューサーで流量測定している。このように呼気側にも吸気側と同等のガス制御能力を有している点が特色である。
3)ガス流量測定(図III-3-2)
吸気側、呼気側もVortex型のフロートランスデューサーを使用している。
4)吸気バルブ
バルブの開度はデジタル信号に基づいてステッパーにより189段階に調整される。
5)呼気バルブ
バルブの開度はデジタル信号に基づいてステッパーにより95段階に調整される。
4.ニューマティック回路(図III-3-3)
O2/Air配管より入力されたガスは AirレギュレーターやO2リレーで同じ圧に調整された後、O2ブレンダーで目的の酸素濃度に調整される。O2ブレンダーもステッパーモーターで駆動される。O2/Airのいづれかのガスが途絶えた場合でも作動し続けれるように交差弁"Crossover solenoid"が設けられており、この様な事態にはこの弁が開いて他方へガスを供給する。ただし酸素濃度の設定は無効になる。ブレンダーを出たガスは180LPMにも及ぶピークフローに対応するため貯蔵タンク(Accumulator tank)に貯められる。この吸気ガスは整流器(Flow conditioner)で整流された後、内部フロートランスデューサーで、吸気流量を計測する。実測の吸気流量、気道内圧を基にフローコントロールバルブの流量制御(サーボ制御)がされる。近位圧センサーチューブ(Proximal airway pressure Tube)にはパージ流(purge flow)が流れていて、回路内の水滴凝集や逆行性の汚染、を防ぐ。これらのガス流はパージ弁(Purge/bleed valve)で作られる。呼気弁もステッパーモーターで駆動される圧調整弁(Pressure valve)よりの駆動ガスで開閉される。呼気ガスもVortex型のフロートランスデューサーで計測される。大気解放弁(Sub-ambient over pressure relief valve)は機械故障時の大気開放弁と異常高圧時の安全弁を兼ねている。遮断弁(Shut off valve)は配管のガスが途絶えたときに患者回路と機械を切り放す弁である。患者回路内には5LPMのバイアス流が流れている。これによりブレンダーや吸気・呼気の流量測定の精度の向上やのディマンド系の応答性が改善されている。バイアス流はリーク補正(Leak compensator)の働きもしていて、回路内にリークがあってもPEEP/CPAP圧が維持されるようにバイアス流量を増加させる。
5.制御ソフト
1)トリガー方式
近位圧センサーチューブ(Proximal Airway Pressure Tube)により、患者の口元での内圧変化を感知する、圧トリガー方式。ただし、患者回路内に5LPMのバイアス流があるので、その分実質感度は若干低下している。ほとんどのケースでは0.5pH2Oが最適値である。トリガー感度の数値自体は絶対的なものでなく相対的なものである。他の機種から移行する場合は数値を同じにしても意味がなく、個々の機器によって実質のトリガー感度は異なっていることを認識すべきである。
2)ASSIST/CONTROL
通常のs-CMVと異なる点は、吸気ガス流量補正機能(Flow supplementation)にある。これは、患者の吸気努力(吸気流量)が、設定された強制換気流量を超えた場合、気道内圧がPEEP圧以下にならないよう、吸気ガス流量を補正して最大150LPMまで増加させる機能である。吸気はtime cycleで終了する。この際、吸気流量の増加分だけ一回換気量は増加し、ASSIST+,CONTROL+の表示がCRTディスプレーに表示される。
(参考)Flow & Volume Augumentation,Pressure Augumentation
Bear-1000になり、Flow SupplementationはFlow & Volume ,Pressure Augumentationに発展する。
Pressure Augumentationでは強制換気(Volume ventilation)時に、気道内圧がPEEP+PSV圧以下に低下しないように制御される。つまり、PSVとCMVが重ねられた形で同時に提供される。もし患者の吸気能力が高ければ、ほとんどPSVのまま経過する。低ければ逆にCMV優位の換気になる。吸気の終了は、設定換気量が達成され、しかも患者の吸気努力がなくなった時点で行われる。(=volume cycle and flow cycle) したがってPressure AugumentationはPSV/CMVとも表現できる。なおバード社はVAPS(Volume Assisted Pressure Support)と命名している。この機能は必要に応じてON/OFFできる。
一方、Flow & Volume AugumentationはPressure AugumentationのPSVレベル=0と考えられる。この機能はCMVに必ず付加される。これはほとんどFlow Supplementationと類似であるが、CMVがvolume cycleで終了する点が差異である。また、CMV終了時点で患者の吸気がまだ継続している場合も吸気ガスが供給され続けるので、double cyclingを起こしにくい。詳細はI.新しい人工呼吸モードの概念と設計思想 A.各論 12.VAPS,Pressure Augumentationを参照。
3)SIMV
可変時間方式。強制換気にはFlow supplementationも働く。
4)PSV
吸気終了認識条件は、吸気流量が限界流量(terminal flow rate)以下になった点である。Ver.10より最大5秒になるとPSVは強制終了する。なお、気道内圧の上昇は制御に関与しない。限界流量PSVピークフローの約20%値が用いられているが、PSVの設定圧によって%値が多少変化する。
5)AMV
AMVは基本的にはSIMV+EMMVである。EMMVとAMVの根本的な相違は、最少の強制換気数をオペレーターが設定できるところにある。詳細はI.5.AMVの章を参照。
(参考;AMVの応用)
患者の呼吸状態に合わせて、機械が自動的に追従して最適なパラメーターを設定してくれる機能は「夢物語」であるが、AMVにはその可能性が見える。筆者は下記の設定を標準設定としているが、ほとんどの患者にそのまま適応ができ、また、患者の換気能力が変動してもファイティングしない。
モード AMV
一回換気量 400〜500 ml
吸気流量 50〜80 LPM
ノーマル回数 8 回
分時換気量 6〜8 LPM
PSV 8 cm
PEEP 1 cm
WAVE FORM Decelerating
6)CPAP
定常流方式とディマンド方式(PSVレベル=0)が選択できる。定常流方式でもディマンドフローは最大170LPMまで増加する。
7)Time cycle,Pressure relief(圧リリーフモード)
Constant flow,Time cycle,Pressure reliefで作動する本格的な新生児用の換気モードが用意されている(Bear Cubの機能が再現されている)。このモードでは、吸気フローコントロールバルブは一定の吸気ガス(定常流)を供給する。気道内圧の制御は呼気弁が担当していて、呼気弁を開閉して吸気圧を得る構成になっている。呼気弁の働きだけでPEEP/CPAP圧が維持できないときは、吸気ガス流量が150LPMまでの範囲内で増加する(=ディマンドフロー)。このモードでも、一回換気量、分時換気量の測定が可能である。
8)無呼吸バックアップ
成人ではAMVモードがあるので、無呼吸バックアップは必要ないが、Time cycle,Pressure reliefモード用の無呼吸バックアップ機能はない。
9)PEEP compensator(PEEP補正)
受動的な呼気弁制御では、呼気ガス流量に応じて呼気弁で圧勾配が生じ、PEEP/CPAP圧が変動するが、Bear-5では圧によるサーボ制御により、呼気流量に関わらずPEEP/CPAP圧を維持する。
10)リーク補正機能(Baseline pressure maintenanceとLeak make-up)
Machine pressure - Proximal airway pressureが一定の値(=0.7cmH2O)以上になれば、これを補正するように吸気ガス流量が増加される。また、回路内のバイアス流もPEEP/CPAP圧を維持するように増量される。結果的に患者回路のリークを補正した換気が送られる。機械の"autocycle"を防ぐために、補正できる量はトリガー感度の設定で異なる。
トリガー感度 最大許容リーク
0.5 cm H2O 1 LPM
1.2 cm H2O 10 LPM
2.5 cm H2O 25 LPM
11)SIGH
SIGH VOLUME(65-3000 ml)、SIGH RATE (2-60 SPH)、MULTIPLE SIGH (1,2 or 3)で設定可能。
12)データー出力
気道内圧、換気量、吸気呼気流量についてはアナログ信号が出力できる。また RS232C によるデジタル出力があり、一回換気量、ピーク気道圧、アラーム状態、等が、出力されいる。
6.操作体系
1)基本項目(図III-3-4a)
設定したい項目(換気量、呼吸数、等) ごとにボタンがあり、項目を選択した後、入力キーで確定する。数値の設定は、項目確定後、さらにテンキーで数値を入力し、その後、入力キーを押して確定する。入力数値が設定可能範囲外であれば、設定可能な範囲がCRTに表示される。
2)画面表示の切替え(図III-3-4b)
アラーム設定と画面表示切り替えの操作は、画面上のメニューを見ながらファンクションキーで項目を選択する。数値入力が必要な項目はテンキーで入力する。例えば、モニター/アラーム画面とグラフィック画面の切り替えは、画面のメニューに従い、ファンクションキーAを押して切り替える。
3)特殊機能
呼吸メカニクスは画面のメニューに従い、ファンクションキーBを押して機能させる。この際は吸気ポーズ(EIP)の設定が必要である。
7.モニター、アラーム機能
@一回換気量(強制、自発)
A気道内圧(Peak,Mean,PEEP/CPAP)
B呼気分時換気量
C呼吸数
D機器作動異常
8.ディスプレー機能
カラーCRTディスプレーにより、実測の換気状態とアラームの状況を一画面で表示できる。またメニューもこれに表示される。グラフ画面に切り替えると気道内圧、換気量、吸気呼気流量のうち、いづれか2つのグラフが任意のスケールと配置で表示できる。定常流を使用しても換気量測定や表示ができるが、この場合はトリガー信号を検出した以降の量が計測される。
9.患者回路構成、加湿器(図III-3-5)
温度センサーと気道内圧の感知用のチューブが必要である。加湿器には、BEAR社VH820、もしくはF&Pのいづれの機種でも選択可能である。VH820は水蒸気により加温、加湿をするユニークな形式で加湿効率も高く、吸気抵抗も少ない。また、高流量のガスに対しても充分な加湿性能を持つ。ただ、原理上どうしても余分な水分が回路内に凝集する欠点がある。そのためホースヒーターもしくはWater trapは必須である。チャンバーはディスポ品と再使用がある。再使用はパッキングが劣化すると水漏れする。水は自動供給型で、この水は絶えずチャンバー内で沸騰しているので、雑菌の繁殖の心配はない。加湿器の出口と患者の口元で温度を感知して加温量を制御している。ホースヒーターを併用した際には、温度と独立して加湿量も調節できる。
10.日常のメンテナンス
1)消耗部品
呼気弁内のシール、ダイアフラム、加湿器のヒーターリング(Heater O-ring)等はときどきチェックして必要があれば交換。特に回路にリークがあれば要点検。定期的に(6カ月ごと)交換するのが望ましい。その他 O2/Air入力フィルターは一年ごとに交換。
2)フロートランスデューサー
呼気のフロートランスデューサーは極めて重要な機能部品なので、IMIではオーバーホール時に交換を推奨しているが、Bear社で特別にこれを指示している訳ではない。
11.定期点検
20,000 時間ごとにBear代理店による点検が推奨されている。
12.欠点
1)アラーム項目は多彩で、多くの項目が不必要と思われる。不用意に設定すると、絶えずアラームが鳴ってしまう。アラーム音量は、大きく、また刺激的である。異常事態が放置される心配はないが、noisyのそしりは免れない。
2)とても高性能であるが、使いこなしにある程度の技量を要求するので、本来の性能を充分生かし切れていないケースが多い。この点ではあたかもスーパーカーのフェラーリのようである。
BEAR-1000(図III-3-6)
1.特徴
アメリカの常として、頭脳集団は自らの評価を武器にして、開発予算を求めて企業間を移動していく。Bear-5の開発にあたりこれらの天才的な頭脳はBear社に収束し、ニューマティック制御が得意なBear社に、当時としても先鋭的な、制御ボードを多数搭載した複雑なコンピューター制御の人工呼吸器をもたらした。高機能の代償として、膨大な開発費と製造コスト、多数の高レベルのサービス技術者を擁す必要があり、また、ハードの安定性にも複雑さ故の弱点を生じ、商業的にはあまり成功しなかった。その集団が抜けた後に、その反省も含めた後継機種としてBear-1000が開発された経緯がある。したがって、BEAR-5とBEAR-1000は類似性がありながら、デザイナーが異なる別系統の作品である。BEAR-1000のコンセプトは、最先端を狙うのではなく、現在流用できる汎用技術を基に商業的配慮を優先した商品づくりにある。機構上も、Bear-5と似ているが、制御機構の簡略化や、電子技術の進歩に伴いボード類が劇的に小型化した。コントロールパネルも変更され、操作性は向上した。ME(Medical Engeneer)やRT(Respiratory Therapist)の意見を反映して、すべてのオプションは(極端な設定範囲を含めて)ユーザー設定できるようになった。ディスプレーは3波形同時表示が可能な液晶式に変更され、メカニクスやループ画面も表示できるようになった。また、pediatric packageが追加されて30mlよりのボリューム換気が可能になった。Flow-By 2.0(Bennett)と同じ機能(ベースフローとフロートリガー)も追加された。呼気弁の機構も簡素化されたが、呼気弁の制御能力に後退を生じた。呼気側のフローセンサーは熱線式に変更されたが、コストダウンの代償に精度上の問題があり、1998年にはVarFlexと呼ぶ差圧式センサーに改良を余儀なくされた。なお、姉妹機として機能限定版のベーシックモデルも用意されている。BEAR社はAllaid Health Care社に買収されたが、最近さらにThermo Electron社に買収された。Bird社と親会社が同じになったので、今後は、機種の合理化、統合、それに伴う代理店の変更、混乱が予想される。次期モデルは両者の技術が融合する可能性がありこれは楽しみである。
2.性能
1)利用できるモード
Control/Assist
SIMV+PSV
SIMV(PCV)+PSV
PCV
PSV
CPAP(定常流、デマンド)
EMMV+SIMV+PSV
---------------------------------
+PEEP
+Flow/Volume Augumentation
+Pressure Augumentation
+Pressure Slope
2)基本データー
システム作動間隔時間...10ms
最大吸気ガス流量.
強制換気.............150LPM
PSV......................200LPM以上
吸気ガススルーレート... ?L/s2
最大強制換気数.......150 BPM
最大SIMV回数.......150 BPM
3.制御回路、制御機構の解説
1)制御機構の概説
Monitor PCB,Control PCB,Electro-Pneumatic Interface(EPI),Flow Sensor PCB,Power Supplyの5コンポーネントにより構成される。MPUは、コントロールボードにintel 80188を使用している。MPUの変更(Motorrolaよりintelへ)や吸気側のフローセンサーが省略されたこともあって、フロー制御のソフト(Flow Logic,Volume Logic)はBEAR-5のそれとは別物である。特に圧換気では(BEAR-5で組み込まれていたオーバーシュートやアンダーシュートを防ぐための)ノウハウが欠落したようで、圧換気時には圧波形に振動が多く、また立ち上がりが悪い。
2)機械的機構の特徴
Bear-5では吸気バルブ・呼気バルブともにステッパーモーターによるサーボバルブを使用していたが、Bear-1000では吸気バルブのみがサーボ制御される。
3)ガス流量.計測
Bear-5で使われていた吸気側・呼気側のVortex型フロートランスデューサーは物理的に強固で水滴や温度に対しても精度が高く信頼性の評価も高いものであった。しかし5LPMのバイアス流を必要とし、圧トリガー方式では実質上の感度は低下した。Bear-1000では、吸気側はバルブの開度と圧との既存の関係により吸気流量を推定する。吸気側にはフローコントロールバルブ前後の圧格差とバルブ位置によって吸気ガス流量.を計測し、呼気側は熱線型のフロートランスデューサーで計測する。その結果、バイアス流は不要になった。Bear-1000ではバイアス流量はベースフローを選択しなければゼロである。しかし、ベースフローを設定していない場合には呼気弁の作動が不安定になり、また、患者回路の振動などを拾い、ベースライン圧が安定しないので、トリガー機能は正常に機能せず、ミストリガーやトリガーロスを生じるケースがある。これらの対策としてフィルタリングアルゴリズムを組み込むのが常套手段であるが、こうしたノウハウも欠落しているようである。呼気側のフローセンサーは吸気側に比して過酷な環境にあり、呼気ガスによる温度変化、水滴や啖、ネブライザーによる薬剤の影響を受けやすいので、熱線型のセンサーでは精度を維持、確保するのは困難である。その対策として、Benette 7200aeやAdultstarではHeated Filterで温度を安定化させ、また誤差要因より保護をしている。Drager社は信頼性に確信がないのか、モニターやアラーム、トリガー検出用にのみ使用し、情報の利用法に限度を設けている。また、エビタにベースフローがないのも、呼気のフローセンサーの情報を利用せずフロートリガーを可能にするためである。過去にもOhmeda社のCPU-1において呼気側のフローセンサーの精度が問題になった事もある。このように熱線型フローセンサーを利用するには充分な対策とノウハウが必要である。しかし、Bear-1000では安易に外付けにされた熱線型センサーの情報でEMMVを制御していたのが不安要素であった。現実に精度上の問題で、フロートリガーやEMMVが正しく機能しない場合がある。この点に関しては、ようやくBear社も非公式ながら問題を認めていて、現在はVarFlexと呼ばれるバリアブルオルフィス型の圧差型センサーに置き換わっている。しかし、未だ精度が良いとは言えない。
4)吸気バルブ
バルブの開度はデジタル信号に基づいてステッパーにより189段階に調整される。
5)呼気バルブ
ニューマティック回路による機械的な機構で構成される。そのため、PEEPレベルの設定はマノメーターを見ながら手動で調整する必要がある。呼気ガス流量による変動を防ぐPEEP圧補正機構はなくなった。
4.ニューマティック回路(図III-3-7)
O2/Air配管より入力されたガスは AirレギュレーターやO2リレーで同じ圧に調整された後、O2ブレンダーで目的の酸素濃度に調整される。O2ブレンダーもステッパーモーターで駆動される。O2/Airのいづれかのガスが途絶えた場合でも作動し続けれるように交差弁"Crossover solenoid"が設けられており、この様な事態にはこの弁が開いて他方へガスを供給する。ただし酸素濃度の設定は無効になる。ブレンダーを出たガスは200LPMにも及ぶピーク流量.に対応するため貯蔵タンク"Accumulator tank"に貯められる。このガスはフローコントロールバルブで流量制御(サーボ制御)がされ吸気ガスになる。Flow valve pressure transducerは、圧とバルブの開度より流量を規定するための情報を提供する。
近位圧センサーチューブ"Proximal airway pressure Tube"にはパージ流"purge flow"が流れていて、回路内の水滴凝集や逆行性の汚染、を防ぐ。
呼気弁駆動圧は、吸気時にはlow pressure regulator 2PSIGに、呼気時にはPEEP control(needle valve, jet pump)で作られた圧に、Exhalation Solenoid Valveで切り替えられる。
呼気ガスは熱線型のフロートランスデューサーで計測される。
大気解放弁"Sub-ambient over pressure relief valve"は機械故障時の大気開放弁と異常高圧時の安全弁を兼ねている。遮断弁"Shut off solenoid valve"は機器異常時に患者回路と機械を切り放す作用をする。
5.制御ソフト
各機能の説明
1)トリガー方式
近位圧センサーチューブ"Proximal Airway Pressure Tube"により、患者の口元での内圧変化を感知する圧トリガー方式が主体である。ベースフロー(0 or 2〜20LPM)を選択するとフロートリガー(1〜10LPM)も併用される。この場合いづれか条件を満たした時点でトリガーとなる。フロートリガーでは呼気時における、吸気バルブの出力とフローセンサーの測定値の差をトリガー信号としている。この差は、湿気や回路リーク、センサーの誤差で影響される。この影響を最小化するために学習機構が設けてあり、測定されるベースフローの減少量はベースフローの設定値の1/2までなら、毎呼気ごとに自動修正される。つまり、トリガーする直前の時点(詳細は不明である)でのフローセンサーの計測値をフロートリガーベ−スライン(基準値)にしている。学習機能をリセットするにはManual Breathを押してベースライン値を確立し、トリガーしているのを確認後、アラームリセットを押す。
2)ASSIST/CONTROL
0.03〜2.0Lの範囲で設定可能(Flow rateは5〜150LPM)。通常の(s)CMVと異なる点は、吸気ガス流量.補正機能(Flow/Volume Augumentation)にある。これは、患者の吸気努力(吸気流量.)が、設定された強制換気流量.を超えた場合、気道内圧がPEEP圧以下にならないよう、吸気ガス流量.を補正して最大150LPMまで増加させる機能である。この際、吸気流量.の増加分だけ一回換気量は増加する。吸気波形(Wave Form)は漸減波、矩形波、サインウェーブを選択できる。
3)Flow & Volume Augumentation,Pressure Augumentation(図III-3-8)
Bear-1000では、Bear-5のFlow SupplementationはFlow & Volume ,Pressure Augumentationに発展する。Pressure Augumentationでは強制換気(Volume ventilation)時に、気道内圧がPEEP+PSV圧以下に低下しないように制御される。つまり、PSVとCMVが重ねられた形で同時に開始する。もし患者の吸気能力が高ければ、ほとんどPSVのまま経過する。低ければ逆にCMV優位の換気になる。吸気の終了は、設定換気量が達成され、しかも患者の吸気努力がなくなった時点(ピークフローの30%値)で行われる。(=volume cycle and flow cycle) したがってPressure AugumentationはPSV/CMVとも表現できる。なおバード社のVAPS(Volume Assured Pressure Support)と基本的には同じであるが、吸気終了条件に差がある。この機能は必要に応じてON/OFFできる。
一方、Flow & Volume AugumentationはPressure AugumentationのPSVレベル=0と考えられる。この機能はCMVに必ず付加される。これはほとんどFlow Supplementationと類似であるが、CMVがvolume cycleで終了する点が差異である。また、CMV終了時点で患者の吸気がまだ継続している場合も吸気ガスが供給され続けるので、double cyclingを起こしにくい。以前のバージョンではPSVとPCVレベルは同じつまみで設定していたが、最近のバージョンではこれらは独立して設定できる。Pressure AugumentationレベルはPCVレベルの設定で行う。詳細はI.新しい人工呼吸モードの概念と設計思想 A.各論12.VAPS,Pressure Augumentationを参照。
4)SIMV
可変時間方式。強制換気にはFlow/Volume Augumentationも働く。Pressure Augumentationも付加できる。
5)PSV
吸気終了認識条件は、ピークフローの約20%である。最大5秒になるとPSVは強制終了する。なお、気道内圧の上昇は制御に関与しない。
6)PCV,PC-SIMV
PCVレベルの設定とPSVレベルの設定は従来のバージョンは同一の項目で設定していたが、新バージョンではそれぞれ独立して設定できる。これは特にPC-SIMVやPressure Augumentationで意図どおりに設定するのに有効である。
7)MMV(Minimum Minute Volume)(図III-3-9)
Bear-5でAMVと命名されたモードは、操作パネル上はSIMV+MMVという形で設定する。したがってMMVはSIMV/CPAPモードのみで有効になる。通常はSIMVであるが、呼気分時間気量が設定値を下回ると、目標分時換気量を維持するSIMV回数(set minute volume/set tidal volume)に増加する。この時にはMMV activeの表示が点灯する。呼気分時換気量がMMVレベルの+10% or +1LPMを超えれば自動解除される。もちろん、強制換気にはFlow/Volume Augumentationも作用する。Pressure Augumentationも付加できる。
8)ベースフロー(定常流)
定常流は呼気弁の作動を滑らかにし、PEEP/CPAP圧(ベースライン圧)を安定化させる作用がある。また、患者回路のリークを補正する機能や、吸気バルブをあらかじめ開いておけるので吸気バルブの応答性を改善できる、呼気ガスの再吸入を防ぐ、などの多くの利点がある。さらに、理想的なCPAPにはBennettのFlow-byやBirdのFlow support systemを例に出すまでもなく定常流の併用が不可欠である。Bear-5でもCPAPに定常流を併用することで高性能なCPAP装置としても応用できた。しかしBear-1000ではベースフローを設定しないと定常流は併用されない。定常流が設定されていない状態では、圧トリガー機構の作動が極めて不安定で実用に耐えない。ベースフローは0,2-20LPMの範囲で設定可能で、呼気の開始後100mSで始まる。これはFlow-byと同じで、呼気ガスによる呼気相初期でのPEEP圧の上昇を避けるためである。ベースフローを選択しないとフロートリガーも併用できない。ベースフローの最適値は不明であるが、呼気弁の抵抗を考慮するとトリガーレベルを超える最少量が最適値と思える。Bear社の解答では、ベースフロー6LPMでフロートリガーレベル2LPMがお薦めであるが、経験的にはトリガーレベルは4LPM以上にした方が誤動作が少ない。相対的に機械の方のディレーの方が多いので、感度を上げてもガスが供給されるまでのディレー時間はあまり変化せず、それ程の御利益はない。
9)CPAP
ディマンド方式(PSVレベル=0)だけでなく、ベースフローを選択すると定常流方式を併用できる。しかし、呼気弁の抵抗を考えると高流量のベースフローは推奨できない。ディマンドフローは最大200LPM以上まで増加する。
10)Pressure Slope
圧換気モード(PSV,PCV,Pressure Augumentation)では吸気圧の立ち上げ速度を調整できる。成人用、小児用のそれぞれ、19段階に調整できる。小児用の設定では、例えば"P 9"のように"P"の文字が付加される。これは吸気バルブのサーボ制御回路に補正信号を送る際のゲインを調整することで実現している。そのため、Slopeを上げるとサーボゲインが上がり、立ち上げは早くなるがより強いオーバーシュート、アンダーシュートを生じ、気道圧曲線がギザギザになり、不安定になる。一方、Slopeを下げると滑らかになるが、レスポンスも低下するので、呼吸仕事量が増加してしまう。したがって、(成人用か小児用かの切り替え以外は)変化させても有効と感じられない。他社のように(ゲインを変化させず)基準圧の傾斜を変化させてをslope controlをしてもらいたい。
11)ネブライザー
従来のBearでは、ネブライザー療法を評価せず、ネブライザーはオプションにすら用意されていなかった。市場の要望によりBear-1000には用意された。30分で自動的にOFFになる。
12)リーク補正機能;"Baseline pressure maintenance"と"Leak make-up"
Bear-5にあった吸気時の補正機能は省かれた。呼気時にはPEEP/CPAPレベルが維持されるようにフローが追加される。勿論ベースフローもリーク補正に有効である。トリガー信号をマスクしないように補正できる量はトリガー感度の設定で異なる。
13)酸素100%キー
このボタンを押すと100%の酸素濃度になる。3分後は自動的に元の設定に戻る。
14)SIGH
設定すれば、設定換気量の150%量で100呼吸につき1回SIGHが入る。
15)Manual Breath
呼気時にボタンを押すと、CMV,PCVでは強制換気が始まる。SIMVではSIMV cycleがリセットされトリガーウィンドーが開始する。
16)End Expiratory Hold
呼気時にこのボタンを押すと次の強制換気までの時間、最大9秒まで吸気弁と呼気弁を閉じる。Intrinsic PEEPの計測に利用する。
17)Manual Insp Pause
吸気時にこのボタンを押すと最大2秒まで吸気ポーズが挿入される。静的コンプライアンスの計測に利用する。
18)データー出力
気道内圧、換気量、吸気呼気流量.についてはアナログ信号が出力できる。また RS232C によるデジタル出力があり、一回換気量、ピーク気道圧、アラーム状態、等が、出力される。
6.操作体系(図III-3-10)
1)注意点
RTやMEの要望を反映して、設計思想として各項目が独立して設定でき、極端な値や換気様式を選択できる。また、実用的でない実験的な設定も可能である。これはある程度以上のレベルのユーザーには便利であるが、一般的な日本の医療従事者には危険な側面もある。充分にマニュアルを読んでから使用した方がよい。
2)パネル構成
上段より、モニター、アラーム設定、換気設定、オプション設定になっている。アラームセットと換気セットのノブは別個になっている。
3)入力方法
設定したい項目(換気量、呼吸数、等) ごとにボタンがあり、項目を選択する。ボタンに該当するLEDは点滅する。セットノブを回して希望の数値を入力し、もう一度項目ボタンを押して確定する。確定すると点滅は点灯に変わる。モードやネブライザー、波形選択などの数値入力を伴わないキーは、選択後、もう一度同じキーを押して確定する。
4)吸気圧(Inspiratory Pressure)
PCV,Pressure Augumentationレベルの設定はこの項目で行う。PSVレベルの設定と異なった値が設定できる。
7.モニター、アラーム機能
1)(1)換気量、(Tidal,Total MV,spont.MV)(2)気道内圧、(Peak,Mean,Plateau)(3)呼吸数、比率(Total,spont.,Ti,I:E,%MMV)を選択してモニター表示できる。
2)I:E比逆転、分時換気量、呼吸回数、ピーク気道圧、ベースラインの上限、下限をアラーム設定できる。
8.ディスプレー機能(図III-3-11)
オプションで、モノクロ液晶ディスプレーによって、圧、フロー、ボリュームの3波形を同時表示できる。メカニクス画面やループ画面もある。
9.患者回路構成、加湿器
温度センサーと気道内圧の感知用のチューブが必要である。加湿器は、Bear社VH820、もしくはF&Pのいづれの機種でも選択可能である。VH820では、ベースフローの設定が多いと呼気時での煮沸量が多くなり、それに伴うノイズがトリガーに悪影響を与えることがある。現在、IMIはVH820の取り扱いを中止したために、国内ではVH820装着モデルの新規発売はない。
10.日常のメンテナンス
呼気弁アッセイ、患者回路、フローセンサー、フィルターは患者ごとに滅菌する。呼気弁内のダイアフラム、加湿器のヒーターリング等はときどきチェックして必要があれば交換。特に回路にリークがあれば要点検。定期的に(6カ月ごと)交換する。その他 O2/Air入力フィルターは一年ごとに交換。
11.定期点検
一年ごとにPreventive Maintenance Check(センサーの校正、フィルター類のチェック等)を行う。
12.欠点
1)フローセンサー
呼気側の熱線型フローセンサーは温度、湿度による影響を受けやすく、ディスプレーでボリュームを表示させた際にカーブが基線に戻らない。さらに経時的にドリフトするのでフロートリガーも不安定である。当然、EMMVは正しく機能しない。これらは新型センサーで少しは改善されたが、それでもBEAR-5の安定性よりはるかに劣る。
2)設計思想
MEやRTを意見を採り入れ、極端な設定が可能なようになっている。これは多様性があり、ある面では便利な機構であるが、危険な設計思想でもある。MEやRTは必ずしも機器設計の専門家ではない、また、制御機器の特性を熟知しているわけでない。彼らの言うとおりに作れば良い機器ができる訳ではない。実用的でない設定や危険な設定が何の警告もなく、また、フロントパネルより簡単にアクセスできる点は問題がある。人工呼吸器は実験装置ではなく、医療機器である点を忘れてはならない。fool proofの思想が必要である。特殊な設定は裏画面や深層メニュー構造によりアクセス可能とすべきである。例えば、ベースフローがない状態が標準状態であるが、これではベースライン圧が不安定になりトリガー機構の作動が不確実になる。圧トリガーは-0.2pH2Oより設定できるが、この値を選択するとauto-cycleを誘発するので(例えばDrager社Evitaのような防止対策がないので)、このことはほとんど無意味である。サーボゲインを調節してslope controlを可能にする事も全く無価値である。しかし、このような設定が、無知や誤解のために選択されているケースをしばしば目にする。
3)圧換気での安定性
圧換気は圧を指標にしたサーボ機構により実現されているが、サーボ機構の設計(ソフト)が悪いので、オーバーシュートやアンダーシュートがひどく圧カーブに大きな振動が乗っている。スロープコントロールをマイナスに設定すると若干改善するが、今度は、レスポンスが落ちる。PSVでは吸気ガス流量がアンダーシュート時に吸気終了条件に達してしまい、吸気が不必要に早期に終了することもある。Pressure Augumentationの概念はすばらしく、Bird 8400やT-BirdのVAPSではとても有効であるが、Bear-1000では、圧サーボ機構が良くないので、意図どおりに作動せず、効果がまったく感じられない。
4)人工呼吸器設計のノウハウの欠落
人工呼吸器の設計には、なめらかな圧換気を提供するフロー制御のアルゴリズム、トリガー機構を高感度にしながら誤動作を防ぐアルゴリズム、フローセンサーの精度管理やドリフト対策が必要で、これらこそ人工呼吸器設計のノウハウである。これらの具体的なノウハウの詳細は企業秘密で公表されていないことが多い。残念ながら、Bear-5からBear-1000にチェンジするにあたり、設計者はノウハウについて熟知していないと思われ、いろんな対策が欠落している。したがってモデル肺では良い性能を発揮するであろうが、臨床上では、使用に際して多くのストレスを感じてしまう。
図III-3-1 BEAR-5の外観
図III-3-2 Vortex型フローセンサー
流体中に障害物を置くと、その後方に流量に応じて乱流による渦(カルマン渦)が生じる。この渦の数を計測する事で流体の流量を計測できる。これは木枯らしで木の枝がぴゅーぴゅー鳴るのと同じ原理である。BEAR-5では渦に超音波をあてて、超音波が渦で変調されるのを検知している。このタイプのセンサーは直接デジタル信号で出力できる上に、非常に強固であり、その上信頼性も高い。また、較正も必要としない。このセンサーがあって初めて呼気の分時換気量による制御(AMV)が可能になる。
図III-3-3 BEAR-5のニューマティック回路
図III-3-4a BEAR-5のコントロールパネル
図III-3-4b BEAR-5のメニュー操作
図III-3-5 BEAR-5の患者回路
図III-3-6 BEAR-1000の外観
図III-3-7 BEAR-1000のニューマティック回路
基本的にはBEAR-5と殆ど同じであるが、呼気弁駆動系がメカニカル機構に変更された。その為に、PEEP補正や小児用圧リリーフ,time cycleモードが不可能になった。吸気側のフロートランスデューサーは省略された。呼気側は熱線型に変更された。しかし精度に問題があり、現在ではVarFlexと呼ばれる差圧型(variable orfice)になっている。
図III-3-8 SIMV with Pressure Augumentation
Pressure AugumentationをONにすると、ボリューム換気の前半部分はPSVと同じ波形になり、後半部分はCMVの波形になる。そのためにPSVとCMVが混在して提供されるSIMV特有の患者が受ける違和感が少なくなる。
図III-3-9 SIMV+MMV
呼気分時換気量が設定以下に減少するとSIMV回数が増加する(バックアップ回数)。自発呼吸が回復して分時換気量が増加すると(1 LPM or 10%)もとのSIMV回数に復帰する。
図III-3-10 BEAR-1000の操作パネル
不評であった10キーによる入力からSETのつまみによるアナログ感覚の数値入力に変更された。設定したい項目のキーを押して項目を選択し、SETキーを回して数値を入力する。もう一度項目キーを押して入力値を確定する。アラーム項目も設定項目のキーにより直接アクセスできるようになった。AMVはMMVレベルを設定することでONになる。SIMV+MMVの形になりAMVの概念が理解しやすくなった。最新バージョンではPSVレベルとPCVレベルを個別に設定できるようになった。
図III-3-11 ディスプレー例
圧、フロー、ボリュームのグラフィック表示やメカニクス、吸気仕事量の計測ができる。